脳神経外科
科の方針
正確な診断に基づく適切な病態説明をして、患者さんに納得のいく治療を提供します。
診療内容と特徴
当院脳神経外科は、日本脳神経外科学会専門医研修施設の認定を受けており、脳神経外科専門医4名で診療にあたっています。スタッフ全員が日本脊髄外科学会認定の脊髄外科認定医あるいは指導医であり、脳腫瘍、脳血管障害などの頭蓋内疾患のみならず、脊椎脊髄疾患から末梢神経までの診察、治療をしています。
また、脊椎・脊髄外来としびれ・痛み外来を開設して、神経系全体から手足のしびれや痛みの原因を単一の科で、系統的に診断し治療しています。
対象疾患
- 脳疾患
脳腫瘍、脳血管障害(脳出血、脳梗塞、くも膜下出血)、頭部外傷、水頭症 - 脊椎脊髄疾患
頸椎:頸椎症性脊髄症、頸椎椎間板ヘルニア、頸椎神経根症、頸椎後縦靭帯骨化症など
胸椎:胸椎後縦靭帯骨化症、黄色靭帯骨化症、胸椎圧迫骨折など
腰椎:腰部脊柱管狭窄症、腰椎すべり症、腰椎分離症、腰椎圧迫骨折、腰椎後側弯症
脊髄・脊椎腫瘍、キアリ奇形、脊髄血管障害など - 末梢神経疾患
- 手根管症候群、肘部管症候群
脳血管障害(脳卒中)への対応
- 脳血管障害患者さんの救急対応は、24時間対応しています。 脳血管障害には、出血するもの(出血性脳血管障害)と、閉塞するもの(虚血性脳血管障害)があります。当脳神経外科においては、急性期の脳出血、脳室内出血、くも膜下出血に対する手術や虚血性脳血管障害の各種の血行再建術などを行っています。
- 救急部と協力し、超急性期(発症4時間30分以内)の脳梗塞にはtPA療法を積極的に行っています。
- 脳卒中地域連携パスを用いて急性期医療から回復期リハビリ、在宅や施設への移行をスムーズに行います。
治療対象疾患と治療法、治療期間
疾患 | 治療法 | 治療期間 | |
---|---|---|---|
脳腫瘍 | 髄膜腫 | 開頭腫瘍摘出術 | 7~10日 |
頭蓋底髄膜腫 | 開頭腫瘍摘出術 | 10~20日 | |
聴神経腫瘍 | 開頭腫瘍摘出術 | 10~14日 | |
下垂体腺腫 | 経鼻法による内視鏡的摘出術 | 5~10日 | |
転移性脳腫瘍 | 開頭腫瘍摘出術 | 約10日 | |
脳血管障害 | 未破裂脳動脈瘤 | 開頭クリッピング術 血管内手術 |
7日~10日 5日 |
破裂脳動脈瘤 | 開頭クリッピング術 血管内手術 |
20~30日 15~20日 |
|
脳動静脈奇形 | 開頭摘出術 血管内塞栓術 |
14日 7~10日 |
|
脳内出血 | 開頭術 血腫吸引術 |
14日 10日 |
|
もやもや病 | 硬膜・側頭筋形成型バイパス術 | 14日 | |
頸動脈狭窄症 | 頸動脈内膜剥離術(CEA) | 7~10日 | |
内頸動脈閉塞症 | バイパス手術 | 7~10日 | |
脊椎手術 | 頚椎ヘルニア | 前方固定術/後方椎弓形成術 | 7日 |
頚椎症性脊髄症 | 前方固定術/後方椎弓形成術 | 10日 | |
頚椎後縦靭帯骨化症 (OPLL) |
前方固定術/後方椎弓形成術 | 10日 | |
頚椎症性神経根症 | 前方/後方除圧術 | 7日 | |
腰椎ヘルニア | 後方除圧術 | 7日 | |
腰部脊柱管狭窄症 | 後方除圧術 | 7日~10日 | |
腰椎すべり症 | 後方除圧術 前方/後方除圧固定術 |
7日 14日 |
|
変性側弯症 | 前方後方除圧固定術 | 20日 | |
胸腰椎圧迫骨折 | 経皮的椎体形成術(セメント治療) | 1日~2日 | |
椎体置換術 | 14日 | ||
手根管症候群 | 手根管開放術 | 1~2日 | |
顔面痙攣 三叉神経痛 舌咽神経痛 |
MVD(微小血管減圧術) | 7日 | |
慢性硬膜下血腫 | 穿頭術 | 7日 |
当科での主な疾患に対する治療方法の紹介
頭蓋内疾患
脳動脈瘤に対する開頭クリッピング
術中モニタリング(MEP)、術中血管造影(ICG)、術中超音波を併用し、安全なクリッピングを行います。


2個の前交通動脈瘤

↓
クリッピング


動脈瘤は消失し、大切な穿通枝も温存されている(矢印)
脳腫瘍に対する開頭腫瘍摘出術
ナビゲーション、術中蛍光撮影(5-ALA),術中モニタリング(MEP)を併用し、安全な腫瘍摘出を行います。


ナビゲーション


術中蛍光撮影(5-ALA)
脳血管バイパス術(STA-MCA bypass)

中大脳動脈が閉塞(左矢印)
中大動脈領域の造影が見られない(右矢印)

2本の淺側頭動脈(矢印)を吻合している。
中大脳動脈領域の血管が造影されている。
頸動脈内膜剥離術(CEA)

内頸動脈の強度狭窄(矢印)

内頸動脈狭窄部の消失(矢印)
脊椎、脊髄疾患
頚椎症性脊髄症に対する椎弓形成術
正中縦割、片開き式の椎弓形成術を症例に合わせて選択して行います。

頚椎後縦靭骨化症に対する除圧術
骨化症の大きさ、部位、頚椎の形状などにより前方から鍵穴手術、後方からの椎弓形成術(頸椎症性脊髄症参照)のどちらかを選択します。

腰部脊柱管狭窄症に対する腰椎椎弓形成術
- 顕微鏡を用いできるだけ正常組織を温存して、十分な神経の除圧可能な低侵襲な腰椎椎弓形成術を行います。
- 低侵襲といわれる①片側侵入両側除圧と②筋肉温存型腰椎椎弓間除圧(MILD)を症例に応じて、使い分けます。

①片側侵入両側除圧

②筋肉温存型腰椎椎弓間除圧(MILD)
腰椎すべり症に対する腰椎固定術

変性性すべり症、椎間板症、分離すべり症、など関節の不安定性が原因で腰痛や下肢症状が出現している場合は椎弓形成術(除圧術)のみでは腰椎不安定性が改善せず、腰痛や下肢痛が残存することがあります。このような場合には固定術が必要となります。
腰椎の固定術は主として①椎体間に自家骨を充てんしたケージを挿入し、この部分で上下の椎体が癒合するようにします。②さらに後方からスクリューでがっちりとケージを挟み込むようにしてすべりの矯正と安定化を図りますが下記のように種々の方法があります。
ケージの挿入とスクリューの挿入の方法について
- ①ケージの挿入方法
Anterior lumber interbody fusion (ALIF:アリフ):腹部の前方から挿入
Posterior lumber interbody fusion (PLIF:プリフ):腰背部から挿入
Trans foraminal lumbar interbody fusion (TLIF:ティーリフ):腰背部から挿入
Extreme lateral l interbody fusion (XLIF:エックスリフ):側腹部から挿入 - ②後方からのスクリュー挿入方法
Pedicle screw fixation(椎弓根スクリュー)
Cortical bone trajectory(CBT) (皮質骨スクリュー)
上記のように多くの組合せがあり、病態に合わせて選択しています。
ケージをALIFやXLIFで挿入する場合は、体位を変換して後方からスクリューを挿入する必要があるので、広範囲の固定術の場合は、ケージを入れる手術と後方からのスクリューを入れる手術を別の日に行うこともあります。
脊椎圧迫骨折に対するセメント治療
当科ではセメント治療としてPVP(経皮的椎体形成術)を行っています。
近年、骨粗鬆性圧迫骨折のみならず、転移性脊椎腫瘍による圧迫骨折や疼痛コントロール目的でもセメント療法を積極的に行っています。
PVP(経皮的椎体形成術)
局所麻酔で可能なセメント治療です。
日帰りまたは一泊の入院です。超高齢者の方、持病のある方でも実施可能です。
高額のバルーンは使用しません。



麻酔 | 入院日数 | 費用 | 一回の手術で治療可能な椎体 | |
---|---|---|---|---|
PVP | 局所麻酔 | 2~3日 | 保険診療 | 数可能 |
すべての圧迫骨折に対して施行できるわけではありません。
保険適用があります。
- 急性期の圧迫骨折
- 背骨が大きくつぶれて扁平化してしまっている場合
- 椎体が変形して神経を圧迫している場合は施行できません。
また、手術直後より痛みは改善しますが骨粗鬆症の背骨は治ったわけではなく、他の椎体に続発
する圧迫骨折をいかに防ぐかが今後の課題となっています。
手術件数の推移と内訳
手術成績
頭蓋内手術内訳
2014 | 2015 | 2016 | |
---|---|---|---|
脳腫瘍手術 | 19 | 20 | 10 |
クリッピング | 15 | 11 | 9 |
シャント手術 | 13 | 7 | 13 |
穿頭洗浄 | 30 | 38 | 44 |
開頭血腫除去 | 9 | 8 | 8 |
下垂体手術 | 1 | 0 | 0 |
バイパス | 2 | 1 | 1 |
その他 | 32 | 25 | 16 |
合計 | 121 | 110 | 101 |
脊椎脊髄・末梢神経手術内訳
2014 | 2015 | 2016 | |
---|---|---|---|
頸椎 | 60 | 87 | 68 |
胸椎 | 13 | 14 | 13 |
腰椎 | 176 | 224 | 150 |
脊椎、脊髄腫瘍 | 9 | 11 | 6 |
末梢神経 | 23 | 21 | 24 |
合計 | 281 | 357 | 261 |