乳がんになりやすい人がいるの?遺伝性乳がんについて

日本では、毎年約10万人が乳がんと診断されています。女性のがんでは罹患数が最も多く、約9人に1人が生涯のうちに乳がんになるといわれています。

2021年女性の部位別がん罹患数

今までに、「母も乳がんだったし…」「うちは『がん家系』だから…」という会話を耳にしたことがあるかもしれません。また、以前には、米国の有名俳優が乳がん発症の予防的措置として乳房を摘出したニュースが話題になったこともありました。

乳がんにはさまざまなタイプがあり、そのうちの90%近くが細胞にある特定のタンパク質や受容体が関係して発症しています。

※乳がんのタイプについては下記のページで詳しく解説しています。

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しかし、残りの10~15%程度は遺伝が関係していると言われており、乳がんになりやすい遺伝子を持つ人では発症リスクが高くなる傾向があります。

どのようなケースの人で、遺伝性乳がんを発症するリスクが高くなるのでしょうか。
このページでは遺伝性の乳がんとその予防について、詳しく解説します。

遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)について

DNA(体の設計図のもと)は細胞の中にあり、体の成長やはたらきを正しくコントロールする大切な役目をもっています。

このDNAの持つ設計図は、何かのきっかけ(例:紫外線、たばこの煙、体の中の反応など)で一部が切れたり、順番が入れかわったりすることがあります。DNAが傷つくと正しく体を作ることができなくなり、がんなどの病気の原因になることがあります

BRCA1・BRCA2遺伝子とは

BRCA1(ビーアールシーエーワン)やBRCA2(ビーアールシーエーツー)という名前の遺伝子は、傷ついたDNAをなおすために働く「タンパク質」を作るもとになっています。

遺伝性乳がんの多くは、このBRCA1やBRCA2遺伝子に、がんの発症と関連の強い変異が起こることで発症します。

BRCA1/2遺伝子のイメージ図

実際に、BRCA1およびBRCA2遺伝子に変異を持つ人では、持たない人に比べ、生涯にわたり乳がんや卵巣がんの発症リスクが高くなることが知られています。
実際に乳がん患者全体の約5-10%、卵巣がん患者の約10%は、この遺伝子の変異が原因でがんを発症しています。

このように、遺伝的に乳がん・卵巣がんの発症リスクが高い状態を遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)」と呼びます。HBOCには、以下のような特徴があります。

HBOCの特徴

  • 若い年齢で発症しやすい(若年性)
  • 複数のがんを発症しやすい(重複がん)
  • 家系内で多くの人ががんを発症しやすい(家族集積性)

また、HBOCでは遺伝子が変化しやすい体質が親からお子さんへと受け継がれる可能性が高く、実際に家族や親族内で乳がんや卵巣がんを発症した人が多い家系では、これらの遺伝子に異常がある場合があります。

BRCA1/2遺伝子検査とは?

BRCA1/2遺伝子検査とは、遺伝性の乳がんや卵巣がんの発症リスクを知るために、BRCA1やBRCA2遺伝子に変異があるかどうかを調べる検査です。

どのような検査を行うの?

検査は採血(血液を採取すること)によって行います。検査結果がわかるまでには、およそ2~3週間ほどかかります。

検査にかかる費用はどれくらい?

以下の条件に当てはまる人では検査が保険適用の対象となり、3割負担の場合では自己負担額は6万600円です(2025年6月現在)。

BRCA1/2遺伝子検査が保険適用となる条件

  • ご自身が乳がんと診断されていて、かつ以下のいずれかに当てはまる
    • 45歳以下で乳がんを発症した人
    • 60歳以下でトリプルネガティブ乳がんを発症した人
    • 2個以上の乳がんを発症した人
    • 乳がんを発症した男性
    • 第3度近親者(※)に乳がん、または卵巣がん・すい臓がんを発症した人が1名以上いる場合
  • ご自身が卵巣がん、卵管がん、または腹膜がんと診断された
  • がんの治療において、分子標的薬オラパリブの適応かどうかを判断する場合

第3度近親者…本人からみて3世代までの血縁者の範囲

第1度近親者父母、子ども、きょうだい
第2度近親者祖父母、おじ・おば、おい・めい、孫、異父・異母きょうだい
第3度近親者曾祖父母、大おじ・大おば、いとこ、曾孫

(2025年6月時点)

また、高額療養費制度の対象となるため、一定の自己負担限度額を超えた部分は払い戻しを受けたり、事前に手続きを行うことで窓口での負担を軽減できる仕組みもあります。

※条件に当てはまらない人でも、自費診療として検査を行うことは可能です。

ご自身が乳がんを発症し、さらに第3度近親者までの範囲に乳がんや卵巣がんを発症された人がいれば、遺伝性乳がんである可能性が高くなり、遺伝子検査の対象となります。遺伝子検査で陽性となった場合には、遺伝性乳がんに応じた治療法が選択されます。

しかし、近年は昔ほど親戚間の付き合いが密ではなく、また病気に関する情報は個人情報でもあるため、親族の間でも病歴が十分に伝わっていないこともあります。

医師は受診時に、ご家族や血縁関係で乳がんや卵巣がん、さらにはすい臓がんや前立腺がんなどのがんになった人がいないかをお聞きすることがあります。治療法を選択する上で大切な情報であるため、もし後からでも分かった場合には、ぜひお知らせください。

BRCA1/2遺伝子検査が陽性の場合はどうなるの?

BRCA1/2遺伝子検査で「陽性」と診断された方でも、必ずしもがんを発症するわけではありません。
しかし、遺伝的にがんを発症しやすい体質であり、事前にがんの発症リスクを下げるための措置を講ずることも選択肢の一つとなります。

BRCA1/2遺伝子検査が陽性の場合では、以下のようながん発症予防措置の費用が保険適用となります。

陽性判定の場合に選択される予防的措置

リスク低減手術
外科手術アイコン

がんの発症リスクを下げるために、乳房や卵巣を予防的に切除・摘出する手術を行うことがあります。

定期検診
定期検診アイコン

早期発見のために、乳がんのMRI検査や卵巣がんの腫瘍マーカー検査などの定期的に行うことがあります。

薬物療法
遺伝子治療アイコン

BRCA1/2遺伝子の変異が認められた場合には、この変異に対して有効とされる薬物治療を行うことがあります。

遺伝カウンセリングを活用しましょう

カウンセラーに相談をする人のイメージ

ご自身がBRCA1/2遺伝子検査で陽性と診断された場合、子どもにも50%の確率で遺伝子の変異が受け継がれることがあります。これは男性・女性の性別に関係なく、男性でもまれに乳がんを発症することがあります。

HBOCの人ががんを発症するのは成人以降であることが多いとされています。BRCA1/2遺伝子検査を受けるにあたり、年齢による制限はありません。しかし、検査やリスク低減手術は、本人がそのメリットとデメリットを十分に理解したうえで受けるかどうかを検討することが大切です。特に未成年のお子さんにHBOCである可能性を伝えたり、検査を勧めたりする時期については、慎重な判断が求められます。

このような遺伝的リスクに対する検査や治療を行う際には、遺伝カウンセリングを受けることがとても重要です。

遺伝カウンセリングでは、染色体や遺伝子が関係する先天的な疾患や特性、体質に関するさまざまな問題を、専門的な知識を持つ医師や認定遺伝カウンセラーに相談することができます。

検査の実施やその後の治療法の選択には、ご自身の希望や状況について、主治医や遺伝カウンセラーとよく相談しながら決定することが大切です。

当院でも遺伝カウンセリング外来を実施し、患者さんへの詳しい説明やご相談を承っています。

遺伝カウンセリング外来では、遺伝に関わる悩みや不安をお持ちの方に対して、科学的根拠に基づいた正確な医学的情報を分かりやすくご提供しています。遺伝に関する疑問やご不安がありましたら、どうぞお気軽にご相談ください。

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遺伝子のイメージ図
ゲノム医療センター

岡山済生会総合病院ゲノム医療センターは、がんゲノム外来部門と遺伝カウンセリング外来部門の2つから構成されます。当院は2023年4月に岡山大学病院の関連施設として、がんゲノム医療連携病院に指定されました。

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この記事を書いた人

元木 崇之もとき たかゆき

所属
役職
  • 副院長
  • 医療安全推進部長
    がん診療連携拠点病院統括責任者
資格
  • 日本がん治療認定医機構 がん治療認定医
  • 日本外科学会 外科専門医
  • 日本乳癌学会 乳腺専門医
  • 日本乳癌学会 乳腺指導医
  • 日本乳癌学会 乳腺認定医
  • 検診マンモグラフィ読影医B評価
  • 岡山大学医学部医学科臨床教授
もとき たかゆき

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