アトピー性皮膚炎とは

アトピー性皮膚炎ひふえん(アトピー)は、良くなったり悪くなったりを繰り返す慢性的まんせいてきな皮膚の病気で、強いかゆみを伴う湿疹しっしんが現れます。
アトピー性皮膚炎の根本的な原因はまだわかっていませんが、「皮膚のバリア機能の低下」と「アレルギー炎症」が大きく関わっているとされています。

ここでは、アトピー性皮膚炎の特徴や症状、治療方法について詳しく解説します。

アトピー性皮膚炎の特徴

日本皮膚科学会では、アトピー性皮膚炎とは増悪ぞうあく寛解かんかいを繰り返す、瘙痒そうようのある湿疹を主病変しゅびょうへんとする疾患であり、患者の多くはアトピー素因を持つと定義しています(アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021より)。つまり、「アトピー素因そいん(体質)を持っている」「かゆみのある湿疹が出る」「良くなったり悪くなったりを繰り返す」ことが大きな特徴といえます。個人差もありますが、比較的「左右対称の部位に現れやすい」ことも特徴です。

アトピー性皮膚炎は乳幼児期に発症することが多い疾患ですが、子どものうちに治ることもあれば、大人になっても症状が続く人もいます。中には青年期や成人になってからアトピー性皮膚炎を発症する方もいます。

アトピー素因とは…

①家族や本人が気管支きかんしぜんそく、アレルギー性鼻炎びえん、アレルギー性結膜炎けつまくえん、アトピー性皮膚炎のいずれか(もしくは複数)にかかったことがある。

 もしくは、

②アレルギー反応を引き起こす「IgE抗体こうたい」ができやすい体質であることをいいます。

関連記事
皮膚科
大人のアトピー性皮膚炎について

一般的に、乳幼児期に発症するアトピー性皮膚炎は、成長とともに改善される傾向があるといわれています。こ […]

もっと見る

アトピー性皮膚炎の原因と発症メカニズム

人間の肌には、外部からの刺激や微生物、紫外線などから身を守るバリア機能が備わっています。このバリア機能は、肌の一番外側にある「角層かくそう」と呼ばれる薄い層が担っています。角層は、角質細胞かくしつさいぼうやセラミドをはじめとする脂質(脂肪の一種)から成り立っており、複数の層が積み重なっています。

健康な皮膚とアトピー性皮膚炎の皮膚の断面図イメージ

肌のバリア機能が正常に機能していると、外部からの雑菌や有害な物質が体内に侵入することや、体内の水分の蒸発することなどを防ぎ、肌を健康に保つことができます。しかし、バリア機能が低下すると、ホコリや洗剤、化学物質、細菌といった刺激物によってアレルギー反応が引き起こされ、炎症が生じます。この炎症によりアレルギー症状を悪化させる情報伝達物質(サイトカイン)が産出され、皮膚のバリア機能がさらに低下し、かゆみが増す結果となります。この強いかゆみにより皮膚を搔きむしり続けると、皮膚のバリア機能がより破壊され、炎症が悪化するという悪循環あくじゅんかんになります。

このため、アトピー性皮膚炎の治療では、「皮膚のバリア機能の異常」、「アレルギー炎症」、「かゆみ」の悪循環を断ち切ることが重要なポイントとなります。

かゆみと炎症の悪化サイクルのイメージ図

アトピー性皮膚炎は、アトピー素因や皮膚のバリア機能の低下などの「体質的な要因」と、アレルギー原因物質(ダニやホコリ、カビなど)やその他の要因(汗、洗剤や化粧品、衣類の摩擦、ストレスなど)による「環境的な要因」が複雑に絡み合って発生する多因子的たいんしてきな病気です。

そのため、例えば同じ化粧品を使用していも、症状が出る人と出ない人がいます。また、同じ人でも体調によって症状が出る場合と出ない場合があります。

アトピー性皮膚炎の症状

アトピー性皮膚炎の症状には、繰り返す「かゆみ」と「湿疹」があります。

かゆみ

かゆみを感じ、患部かんぶを掻きむしることによって、皮膚が厚くなってゴワゴワした状態になったり、かさぶたができたりします。また、かゆみだけではなく、炎症した部位がれ、痛みがでることもあります。

湿疹

皮膚にあらわれる湿疹には赤みのあるもの、プツプツとした盛り上がりのあるもの、浸出液しんしゅつえきが多くジクジクしているもの、ゴツゴツとしたしこりのようなものなど、さまざまなタイプがあります。また、皮膚は乾燥している状態であることが多いです。

アトピー性皮膚炎の病変は左右対称の部位にあらわれやすく、全身のあらゆる部位に生じますが、年齢によって病変が出やすい部位があることが特徴です。

アトピー性皮膚炎を発症しやすい部位のイメージ図

アトピー性皮膚炎の診断と治療

アトピー性皮膚炎の診断では、医師は患者さんの症状(かゆみ、赤み、湿疹、腫れ、ひび割れなど)をうかがったり、肌の状態を詳しく観察したりします。また、アトピー素因があるかを確認するために、ご本人やご家族にこれまでにかかったことのある病気について確認したり、アレルギー検査を実施したりします。

アトピー性皮膚炎の診断が確定したら、その患者さんや重症度に合わせた適切な治療が始められます。治療は肌の清潔と保湿を維持するためのスキンケアと、湿疹を改善するための薬物(抗炎症外用剤こうえんしょうがいようざい・ステロイド外用薬がいようやく)による治療が主体となります。かゆみを和らげるために、内服薬として抗アレルギー薬が使われることもあります。

近年、新規のアトピー性皮膚炎の治療薬が登場し、治療のバリエーションが増えています(※)。これらを適切に組み合わせて、良い状態を長く維持できることを目指して治療をしていきます。

従来から用いられているステロイドやタクロリムスなどの外用薬に加えて、免疫を抑える働きのあるデルゴシチニブ軟膏(JAK 阻害外用薬そがいがいようやく)や、ジファミラスト軟膏(PDE4阻害外用薬)などの新薬も治療に用いられるようになりました。塗り薬の使用にあたっては小児では使えない薬や、副作用が生じる可能性のあるものもあるため、医師の指示を守ることが大切です。詳細は下記のページで解説します。

関連記事
皮膚科
アトピー性皮膚炎の治療薬について

アトピー性皮膚炎は、かゆみや湿疹しっしんを引き起こす慢性まんせいの病気です。この病気は遺伝的な要素の […]

もっと見る

アトピー性皮膚炎を悪化させないために

肌の清潔を保ち保湿しましょう

アトピー性皮膚炎を悪化させないためには、日常的なスキンケアが非常に重要です。汗や皮膚の汚れを落とし、肌を清潔な状態に保つことが大切です。そして、入浴後や手を洗った後には保湿剤を適切に使用し、肌をしっかりとうるおすことが大切です。バリア機能を保つことで、アレルギー反応や刺激に強い肌になります。

刺激物やアレルゲン物質を避けましょう

紫外線や肌に合わない化粧品をなるべく避けましょう。摩擦まさつによる刺激もアトピー性皮膚炎の発症や悪化の要因となるため、肌に優しく柔らかい衣類を選ぶことも大切です。またアトピー性皮膚炎の方は、ダニやカビ、花粉などの特定のアレルゲン物質に反応しやすいことがあります。アレルギー検査を受けて、自分が反応しやすいアレルゲンを知り、それらに対して対策をおこなうことも大事です。

規則正しい生活とストレスコントロールをしましょう

アトピー性皮膚炎の悪化や再発を防ぐため、睡眠不足や偏食を避け、規則正しい生活を心掛けましょう。また、ストレスはアトピー性皮膚炎の悪化に影響を及ぼすことがあります。自分に合ったリラックス方法やストレス解消法を取り入れて、心身の健康を保つことが大切です。

自己判断せず、医師の指示を守りましょう

アトピー性皮膚炎はよくなったり悪くなったりを繰り返す慢性的な疾患です。症状がよくなっても自己判断で薬の使用を中断せず、医師と相談しながら治療を続けましょう。外用薬や内服薬を処方された場合は、使用方法や量を正確に守りましょう。

参考データ

日本皮膚科学会 アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021

この記事を書いた人

吉富 惠美よしとみ えみ


所属

診療部長、褥瘡対策チームリーダー

専門分野

皮膚科一般

資格

  • 日本皮膚科学会皮膚科専門医
吉富医師

関連リンク

問い合わせ先

窓口

岡山済生会総合病院 / 岡山済生会外来センター病院

電話番号

086-252-2211(大代表)

FAX

086-252-7375(代表)

メール