子どもの食物アレルギー治療について~経口負荷試験と経口免疫療法~

以前は、食物アレルギーと診断されると、原因となる食品を「完全に除去」することが一般的でした。
しかし近年では、「必要最小限の除去」を基本としながら、実際にどの程度まで安全に食べられるかを確認し、食べられる範囲を広げていく考え方が重視されています。
そのため現在の小児食物アレルギー診療では、患者さん一人ひとりの症状や経過に合わせて、
- 本当に食物アレルギーがあるのか
- どのくらいまで食べられるのか
- 加熱した状態なら食べられるのか
- 日常生活でどのように管理するか
などについて確認しながら、治療を進めていきます。
なぜ、「完全除去」ではなく「必要最小限の除去」が良いとされているのでしょうか。このページでは、その理由と現在の食物アレルギー治療の進め方の基本的な考えについて、小児科医師が分かりやすく解説します。
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食物アレルギー治療の基本的な考え方
原因となる食品の除去は「必要最小限」で行います
食物アレルギー治療の基本は、原因となる食品を必要な範囲で避けながら、安全に生活することです。
もし必要以上に原因となる食品を除去すると、
- 栄養バランスの偏り
- 食事への不安
- 日常生活への負担

へとつながる場合があります。
このため、現在の食物アレルギー治療のガイドラインでは、「必要最小限の除去」が推奨されているのです。
この「必要最小限の除去」は、後述する「食物経口負荷試験」とセットで行うことが基本です。
原因食物を、はっきりとした根拠なく除去し続けることは、推奨されていません。
除去中の栄養管理と調理の工夫
「必要最小限の除去」を行っている間も、栄養バランスや食事の楽しみを保つための工夫があります。
ここでは、卵・小麦・乳を除去している期間に気をつけたいポイントと、調理での工夫を紹介します。
卵除去中の注意点
卵(鶏卵)は良質なタンパク源であるため、除去中は、
- 肉
- 魚
- 大豆製品
などから栄養を補います。
また、加工食品には卵が含まれている場合があるため、食品表示の確認が重要です。

小麦除去中の注意点
小麦除去中は、特に栄養不足の心配はありませんが、調理の工夫として
- 米粉
- 雑穀粉
- 大豆粉
などを活用します。 米粉パンにも小麦が含まれる場合があるため、原材料表示の確認が必要です。

乳除去中の注意点
乳製品を除去する場合は、カルシウム不足に注意します。
- 大豆製品
- 小魚
- 小松菜
などを活用しながら栄養管理を行います。

調理の工夫
除去中でも、食材や調理法を工夫することで、食事の幅を広げることができます。
例えば、卵の代わりに片栗粉をつなぎに使ったり、小麦粉の代わりに米粉を使ったり、牛乳の代わりに豆乳を使ったりする方法があります。
食物経口負荷試験とは?
近年では、必要最小限の除去を行うために、食物経口負荷試験を用いて「どの程度まで食べられるか」を確認しながら治療を進めることが増えています。
食物経口負荷試験は、原因が疑われる食品を少量ずつ実際に食べながら、症状が出るかどうかを確認する検査です。
血液検査でIgE抗体(※)が陽性であっても、実際に症状が出るとは限らないため、
- 食物アレルギーの診断
- 安全に食べられる量
- 加熱食品で食べられるか
などを確認する目的で行われます。
※IgE(アイジーイー)抗体…体の免疫機能に関わるタンパク質
食物経口負荷試験の進め方
食物経口負荷試験では、まず病院で少量から摂取を行い、問題がなければ、自宅で同じ量を継続して食べてもらいます。
卵の場合、次のような流れになります(あくまでも治療の一例です)。
1.初日に病院で5g摂取

2.自宅で2~3週間継続

3.次回受診時に10gへ増量

このように、病院で症状の有無を確認したうえで、自宅でも継続して摂取できるかをみながら、摂取可能な量を段階的に評価していきます。
当院では、安全に、そしておいしく治していくことを大切にしながら食物経口負荷試験を行っています。お子さんに強い症状が出ないよう配慮しながら進め、無理なく自然に食べられる範囲が広がっていくことを目指しています。
外来と入院、どちらで負荷試験を行うべき?
食物経口負荷試験は、症状の重症度や年齢などに応じて、外来または入院で実施します。
症状を誘発するリスクが高い患者さんは、入院で実施する場合があります。
外来で行う場合
外来では、
- 比較的短時間で帰宅できる
- 来院時間を選びやすい
- 手続きが少ない
などのメリットがあります。
一方で、待ち時間は待合室の中などで過ごしていただく必要があります。
入院で行う場合
入院では、
- 落ち着いた環境で実施できる
- 症状が出た場合にも対応しやすい
- 保育士や医療スタッフと連携できる
- 他の患者家族と交流ができる
などのメリットがあります。
また、当院では入院中はアレルギー対応のレシピ本や、低アレルゲン対応の外食店舗一覧などの資料もご覧いただけます。
ただし、入院手続きが必要になったり、外来に比べて時間がかかったりする場合があります。
経口免疫療法とは?
食物経口負荷試験が「どの程度まで摂取できるかを確認する検査」であるのに対し、経口免疫療法は、「原因食品を継続的に摂取しながら、体を少しずつ慣らしていく」治療法です。
少量から段階的に摂取量を増やすことで、症状が出にくくなったり、誤食時の重症化を防いだりすることを目的に行われます。

一方で、治療中にアナフィラキシーを含むアレルギー症状が誘発される危険もあるため、医師の管理のもとで慎重に進めます。 自己判断で原因食品を摂取したり増量したりすることは避けましょう。

食物アレルギーの予防
二重抗原曝露仮説とは?
食物アレルギー発症の仕組みとして、「二重抗原曝露仮説」があります。
二重抗原曝露仮説とは、食物アレルギーの発症に「皮膚からのアレルゲン曝露」と「口からの摂取」が異なる影響を与えるという考え方で、近年のアレルギー研究でも注目されています。
乳児期に湿疹やアトピー性皮膚炎があると、皮膚のバリア機能が低下し、皮膚から微量のアレルゲンが入り込みやすくなると考えられています。このような経路でアレルゲンに触れることで、体がアレルギー反応を起こしやすい状態になる可能性があります。
一方で、適切な時期に口から食物を摂取することは、体がその食物を「食べ物」として受け入れる働きにつながると考えられています。

このため、食物アレルギー予防のために、離乳食で原因となりやすい食品の開始を必要以上に遅らせることは推奨されていません。 ただし、湿疹が強い場合や、すでに食物アレルギーが疑われる症状がある場合は、自己判断で進めるのではなく、医療機関に相談しながら進めることが大切です。
皮膚ケアの重要性
二重抗原曝露仮説では、湿疹や皮膚炎によって皮膚のバリア機能が低下することで、皮膚からアレルゲンが入り込みやすくなり、食物アレルギー発症につながる可能性があると考えられています。
そのため、食物アレルギー治療では、食事管理だけでなく、スキンケアや湿疹治療についても、医療スタッフから指導を受けながら継続することが大切です。
日常のスキンケアのポイント
入浴時

石けんをしっかり泡立て、泡でやさしく洗いましょう。強くこすらず、洗浄成分が残らないよう十分に洗い流しましょう。
入浴後

保湿剤や外用薬を使用し、皮膚の乾燥を防ぎましょう。
その他の対策

紫外線や汗などの刺激で湿疹やかゆみが悪化する場合もあるため、必要に応じて日焼け対策を行いましょう。
まとめ|食物アレルギー治療は「食べられる範囲」を確認しながら進めましょう
現在の食物アレルギー治療では、「完全除去」だけではなく、必要最小限の除去を行いながら、安全に食べられる範囲を確認していくことが重視されています。
特に食物経口負荷試験は、次のようなことを確認するために重要な検査です。
- 本当にアレルギーがあるか
- どの程度食べられるか
- 加熱食品なら食べられるか
また、乳児期の皮膚ケアや、適切な時期の離乳食開始など、発症予防につながる知見も増えてきています。食物アレルギーは、アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と関連する場合も多く、正しい情報に基づいた管理が重要です。
食物アレルギーについて不安がある場合は、一人で悩まず、かかりつけ医や医療機関へご相談ください。
当院では、小児科を中心に、必要に応じて他診療科とも連携しながら、食物アレルギー診療を行っています。症状や食事管理について気になることがある場合は、お気軽にご相談ください。

参考文献
- 一般社団法人日本小児アレルギー学会食物アレルギー委員会「食物アレルギー診療ガイドライン2021ダイジェスト版」(https://www.jspaci.jp/guide2021/)
- 一般社団法人日本アレルギー学会「アレルギーの手引き 2026~患者さんに接する医療従事者のために~」(https://www.jsaweb.jp/huge/JSA_tebiki2026.pdf)
- 消費者庁「令和6年度 食物アレルギーに関連する食品表示に関する調査研究事業 報告書」(https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_sanitation/allergy/assets/food_labeling_cms204_241031_1.pdf)
- 日本学校保健会「令和4年度アレルギー疾患に関する調査報告書」(https://www.gakkohoken.jp/books/archives/265)
- 食物アレルギー研究会(http://www.foodallergy.jp)
この記事を書いた人
この記事を書いた人
- 医長
- 日本小児科学会 専門医
この記事を書いた人
- 診療顧問
- CPT(済生会子ども救助隊)リーダー
- 日本小児科学会 専門医
- 日本アレルギー学会 指導医(小児科)
- 岡山大学医学部医学科臨床教授




