「転びやすさ」をはかってみませんか?
転倒による死亡者数は交通事故よりも多い?

2025年になり、団塊の世代の方が75歳を迎え、人口の高齢化に伴う社会問題が現実のものとなってきました。
実際に地域に暮らす85歳以上の方では、2人に1人が1回以上の転倒を経験しているといわれています。
『転倒予防白書2019』によると、年間の死者数は転倒によるものが7,900人、交通事故によるものが5,700人で、 交通事故よりも転倒によって亡くなる人の方が多いのです。
厚生労働省の調査でも「交通事故」による年次死亡数は年々減少している一方で、「転倒・転落・墜落」による年次死亡数は、増加傾向にあることが示されています。

転倒リスクは身近な場所にも潜んでいる
「転倒しやすい場所」とは、どのようなところでしょうか。
例えば病院への入院中など、慣れない環境では転倒リスクは通常より高くなります。
しかし病院だけでなく、住み慣れているはずのご自宅内の畳の上や階段、トイレ、屋外の駐車場やエスカレーターなど、子どもから高齢者まで、誰にでもどこでも転倒するリスクがあります。
内閣府が平成22年度に行った調査によると、自宅内での転倒場所でもっとも多かったのが「庭」ですが、次いで「居間・茶の間・リビング」となっています。
特に、立ち上がった時や、夜中に目が覚めたばかりのときは、より危険度が高くなるため、注意が必要です。
慣れている場所でも、転倒のリスクが潜んでいることに注意しましょう。

高齢になるほど転倒リスクは高くなる
一般に、高齢になるほど筋力が低下したり運動能力が低下したりするため、転倒リスクは高くなるといわれています。
特にフレイル(体の力が弱くなって、病気やけがをしやすくなる状態)は転倒の主要な原因となります。
高齢者が転倒や転落によって骨折してしまうと、元の生活に戻ることが難しくなります。
場合によっては介護が必要となることがあるため、日ごろからの転倒予防対策が大切です。

転倒を完全に防ぐことはできないが、対策することはできる!
残念ながら、転倒を100%防ぐことは難しいですが、転倒リスクを減らすことは可能です。
まずは、①自らの転倒リスクを知ること、②転倒を防ぐための予防策を講じることからはじめましょう。
ご自身の転倒の危険度を把握しよう
まずはご自身の身体の状態を把握しましょう。
下記の「転びやすさのチェック表」を用いて、ご自身やご家族の転倒の危険度をぜひチェックしてみてください。
転びやすさのチェック表
チェックのポイント
- 何にもつかまらずに5秒間、立っていられますか?
- 片脚立ちで5秒間、立っていられますか?
- 歩くとき、杖なしでも安定していますか?
分類 | 状態 | 転倒の危険度 |
---|---|---|
Ⅰ-1 | ・片脚(左右どちらでも)で5秒間立っていることができる ・何にもつかまらずに歩ける | 低い |
Ⅰ-2 | ・片脚(左右どちらか一方のみ)で5秒間立っていることができる ・杖などを使えば歩ける | 中程度 |
Ⅱ-1 | ・両足でなら5秒間立ったままでいられるが、片脚立ちはできない ・安定した状態で、しっかりとベッドから立ち上がることができる | 高い |
Ⅱ-2 | ・両足でも、手すりや壁などがなければ立っていられない ・寝ている時間は長いが、手や足を自分の意思で動かすことができる | 高い |
Ⅲ | ・手や足を自分の意思で動かすことができない | 低い(寝たきり) |
当院では入院患者さん全員に対して、「転倒転落スコアシート」を使用して転倒・転落の危険度を評価しています。
転倒を防ぐための予防策をとろう
転倒を予防するためには、以下のような方法が有効です。
ぜひ、今日から生活に取り入れてみてください。
身の回りの環境を見直す

- つまづきやすいものを片付ける
床においたコード、マット、不要なものは片付けましょう。カーペットの端がめくれていないかも確認しましょう。 - 滑りにくい床にする
廊下や浴室、台所などには滑り止めマットを敷くと安心です。 - 手すりや支えをつける
トイレ、浴室、階段には手すりを設置すると有効です。立ち上がる場所(ベッドや椅子まわりなど)にも支えがあると安全です。 - 照明を明るくする
夜間のトイレや移動時に備え、足元にセンサーライトなどを設置しましょう。
体の動きや筋力を保つ

- 毎日少しでも体を動かす
散歩や家事、ラジオ体操、簡単な筋トレなどを習慣にして、足腰が弱くなるのを防ぎましょう。 - バランス感覚を整える
椅子の背もたれにつかまってのかかと上げや、(支えのある状態での)片足立ちなども効果的です。
当院で行っている転倒リスク評価については、下記の動画でも詳しく解説しています。
ぜひ、ご覧ください。
参考サイト
- 内閣府:平成22年度 高齢者の住宅と生活環境に関する意識調査結果(全体版)(https://www8.cao.go.jp/kourei/ishiki/h22/sougou/zentai/index.html)
- 厚生労働省「人口動態調査:不慮の事故による死因(三桁基本分類)別にみた年次別死亡数及び死亡率(人口10万対)(https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003411674)
- 厚生労働省「人口動態調査:家庭における主な不慮の事故による死因(三桁基本分類)別にみた年齢(特定階級)別死亡数及び百分率 」(https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003411678)
※本記事は広報誌「やわらぎ」(192号:2025春号)に掲載したものをWEB用に再編集したものです。
この記事を書いた人
原田 千穂(はらだ ちほ)
所属
医療安全推進室
役職
医療安全管理者
職種
看護師
