がん化学療法・放射線療法の副作用を口腔ケアで予防しよう
がん治療と口腔ケアに何の関係あるの?と思われる方が多いと思います。
しかし、がんの治療が始まると、がんとは全く関係のないお口の中にも、抗がん剤や放射線治療によるさまざまな副作用が起きることがあります。
抗がん剤・放射線治療の口腔内副作用
- 口腔粘膜炎(口内炎)
- お口の乾き(口腔乾燥症)
- 味覚の低下(味覚障害)
これらの副作用によって食欲が落ち、食べられなくなることで低栄養状態に陥ったり、体力や免疫機能が低下し、肝心ながん治療の継続が難しくなってしまうこともあります。

また、お口の中はとても細菌の多いところです。がん治療によって免疫機能が低下した時に、お口の中が不潔だと細菌が増殖し、術後肺炎や創部感染(傷口の感染)などの重大な合併症を引き起こすことがあります。
がんにはさまざまな治療方法がありますが、今回はそのなかでも化学療法と放射線療法にスポットを当て、それぞれの治療をより良く進めるためのお口のケアについて紹介します。
化学療法とお口のトラブル
口腔粘膜炎
抗がん剤はがん細胞だけでなく、健常な細胞にも影響を及ぼすため、口腔内にわずかな傷や機能障害ができただけでも炎症が起こり、口腔粘膜炎を発症します。
この口腔粘膜炎は強い疼痛を伴うため、ご飯を食べられなくなる「摂食障害」を引き起こします。

唾液量の低下
また、抗がん剤の一部には、唾液の量を低下させるものもあります。
唾液には、食物の消化や口腔内の自浄作用がありますが、唾液量が低下することにより、口腔乾燥症を引き起こし、食べ物を呑み込み辛くなり摂食障害を引き起こすばかりでなく、味覚障害や自浄作用の低下を引き起こします。

そのため、虫歯や歯周病の発症のリスクが非常に高まり、進行するとかみ合わせが悪くなり(咬合崩壊)、食べ物をかみ砕き飲み込みやすくする能力(咀嚼機能)まで奪われ、QOL(生活の質)の低下につながります。

こうした口腔粘膜炎や口腔乾燥症は40~70%と比較的起こりやすい副作用とも言われています。
薬剤の種類や個人差にもよりますが、一般的には治療開始から7日目前後で症状が現れ、10~12日目でピークになります。ただし回復には抗がん剤の与終了から2~3週間かかると言われています。
ビスホスホネート製剤の副作用 - 顎骨壊死
また、がんが骨に転移すると骨が弱くなり、骨折することがあります。そこで骨折を予防して痛みを発生させないために、骨を強くする薬剤(ビスフォスフォネート製剤)を使用することがあります。
しかしこの薬剤は長期間使用することで、顎骨壊死(あごの骨が腐る)という重篤な副作用が起こることがあります。この副作用は1~2%ほどの割合で起こります。
痛みで食事や会話を妨げ、治療にも苦労することが多いため、起きないように予防することがとても重要です。
また、この顎骨壊死は、口腔内の衛生状態が悪く細菌が多いと生じやすく、抜歯した(歯を抜いた)傷から起こることが多いです。予防のために、治療前には口腔内を清潔に保ち、問題のある歯はあらかじめ歯科で抜歯しておきましょう。
放射線療法とお口のトラブル
放射線治療はがんのある場所を対象とした局所療法です。抗がん剤治療と比較して全身への副作用は起きにくく、主には治療部位のみに副作用が起きます。
さらに最近の放射線療法は、正常な組織への照射を大幅に削減することが可能となっています。
放射線治療は細胞分裂が活発な細胞ほどその影響を受けやすいという性質があります。しかし活発に分裂・増殖するのはがん細胞だけではありません。
活発に分裂・増殖する正常細胞の例
- 骨髄(血をつくるはたらきをする組織)
- 皮膚
- 口腔粘膜
- 消化管粘膜
- 毛根
これらの組織は細胞分裂が盛んなため、放射線の影響で傷つきやすく、照射部位に含まれる場合は注意が必要です。
まとめ
がん治療が始まる前や治療中には、歯科を受診して口腔内の環境を整えておくと、がん治療の副作用を防ぎ、合併症の症状を軽くすることができます。
結果的にがん治療の遂行と患者さんのQOL(生活の質)向上効果につながりますので、いま一度お口の健康を見直してみましょう。
この記事を書いた人
中島 幸恵(なかしま さちえ)
所属
岡山済生会外来センター病院
資格
- がん看護専門看護師

※本記事は広報誌「やわらぎ」(193号:2025夏号)に掲載したものをWEB用に再編集したものです。
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