顎(がく)変形症に向き合う歯科口腔外科――「噛めない」「話しにくい」を解決する外科治療

噛めない日常――(あご)の形がもたらす不自由

「前歯でうどんが噛み切れずに舌と歯でちぎって食べないといけない」
「口を自然に閉じることができず、意識していないと半開きになってしまう」
「顎の形が気になり、人前での食事や見た目に配慮しながら生活することがある」

これらは、実際に来院された患者さんの顎変形症にみられる症状や日常生活での不便を訴えた一例です。

顎の骨格にずれがあると、上下の歯が正しく嚙み合わず、硬いものを噛み切れない、柔らかいものでもすりつぶしにくいといった「咀嚼障害そしゃくしょうがい」が起こります。食事を工夫せざるを得なかったり、人前での食事に気を遣ったりと、生活にさまざまな不自由を生みます。

噛みにくさや食べにくさは「仕方ないこと」として見過ごされがちですが、その背景には医療で改善できる病気が隠れている場合があります。

顎の“形”が原因となる病気――顎変形症とは

顎変形症とは、上下の顎の骨の位置や大きさのバランスに異常があり、歯が正しく噛み合わない状態を引き起こす病気(咬合こうごう異常)です。

代表的なものに「受け口」「出っ歯」「顔の左右差」などがあり、見た目のちがいだけでなく、噛む力や食事のしやすさに大きく影響します。

症状が進むと、食べ物をうまく噛むことができないだけでなく、顎の関節や筋肉に余計な負担がかかり、不快感や痛みを伴うこともあります。

顎変形症は単なる見た目の問題ではなく、生活機能にも深く関わる病気なのです。

顎変形症の一例

顔面非対称症のイメージ図
上顎前突のイメージ図
下顎前突のイメージ図

噛み合わせ・顔のゆがみを伴う場合は外科的治療が必要に

顎変形症は、矯正治療だけで改善できる場合もありますが、骨格そのものに大きなずれがある場合には、顎の骨の位置を整える外科的な治療が必要になります。

外科的治療は、単に見た目を整えるだけでなく、噛む・話すといった生活機能を改善することを目的としています。

当院が得意とする顎変形症治療――安全・安心の外科治療体制

岡山済生会総合病院では2025年10月に歯科口腔外科を新たに開設し、私はその診療を担当しております。

これまで勤務していた岡山大学病院では、矯正歯科の先生方と連携し、多くの顎変形症の手術を経験してまいりました。その経験を活かし、当院でも顎変形症治療に力を注いでいます。

顎変形症の手術は全身麻酔下で行う大きな治療です。総合病院である当院では、麻酔科や内科など他科と協力しながら、安全性を第一に、安心して治療を受けていただける体制を整えています。

外科治療の一例

下顎枝矢状分割術(SSRO)のイメージ図
Le Fort Ⅰ型骨切術のイメージ図

また、かかりつけ歯科医院の先生方と連携し、一般歯科では対応が難しい「親知らず」や「埋伏歯」の抜歯、全身疾患をお持ちの方への外科的処置、顎関節症や口腔粘膜疾患など、地域で必要とされる幅広い診療にも取り組んでいます。口腔がんについては、当科は岡山大学病院口腔外科口腔顎顔面外科部門の関連施設であり、こちらと連携しながら治療を進めてまいります。

このように「口の中や顎の不調で困ったときに安心して相談できる場」としての役割を担うべく、日々の診療にあたっています。

処置中の様子

顎の不調を放置せず、早めの相談を

噛み合わせのずれや咀嚼のしにくさは、日常生活の中で軽く見過ごされがちです。けれども、その背景には顎変形症といった病気が潜んでいることがあります。

症状をそのままにしておくと、不便が続くだけでなく、治療の選択肢を狭めてしまうこともあります。

私たち歯科口腔外科は、地域のかかりつけ歯科医院の先生方と連携し、一般歯科だけでは対応が難しい症例に専門的な治療を提供しています。噛みにくさや顎の形で気になることがある方は、まずはかかりつけ歯科医院にご相談ください。
そして必要に応じて、当院をご紹介いただければと思います。

新しく始まった歯科口腔外科を、皆さまが安心して相談できる場に育てていきたいと考えています。
どうぞお気軽にご相談ください。

※本記事は広報誌「やわらぎ」(195号:2025冬号)に掲載したものをWEB用に再編集したものです。

この記事を書いた人

竜門 省二りゅうもん しょうじ

所属
役職
  • 医長
資格
  • 日本口腔外科学会 口腔外科認定医
りゅうもん しょうじ

この記事を書いた人

西山 明慶にしやま あきよし

所属
役職
  • 非常勤医師
資格
  • 日本口腔外科学会 口腔外科専門医
  • 日本顎変形症学会 指導医(口腔外科)
  • 日本顎変形症学会 認定医(口腔外科)
にしやま あきよし

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