肺がん

肺の構造

肺は心臓の両側に存在する臓器で、右肺は、上葉、中葉、下葉の三つの部分から、左肺は上葉と下葉の二つの部分からできています。

肺は、空気のとおり道である気管と気管支とその末端にある肺胞と呼ばれる空気の入る小さな部屋からなり、空気中の酸素を血液内に取り込み、血液内の余分な二酸化炭素を排出する重要な働きをもつ臓器です。

気道・肺の構造 喉頭、気管、左上葉、左下葉、右上葉、右下葉 ※数字は肺の区域番号

肺がんとはどんな病気でしょうか

1) 原発性肺がん

肺がんになる人は世界的に増加傾向にあり、日本における2001年の肺がんによる年間死亡者数は5万5千人あまりです(がんで亡くなった方は年間約30万人、うち胃がんで亡くなった方は約5万人です)。1993年には肺がんは男性のがん死亡率の第1位となり、女性では胃がんについで第2位となっています。

最近、遺伝子の異常ががんの発生に関係があることがわかってきました。発がん物質が、複数のがん遺伝子・がん抑制遺伝子の異常をきたすことにより、肺がんが発生することがわかってきています。特にタバコには40種類以上の発がん物質が含まれており、喫煙が肺がん発生の最大の要因(危険因子)となっています。

がんは周囲の組織や器官を破壊して増殖しながら他の臓器に拡がりますが、直接周囲に広がることを浸潤といい、離れたところに移るのを転移と呼びます。

肺がんは、その組織型によって小細胞がんと腺がん、扁平上皮がん、大細胞がんなどを含む非小細胞がんに分けられ、それぞれ肺がんの発生しやすい部位や進展のしかたなどに特徴があり、多彩な臨床像や症状を示します。扁平上皮がんや小細胞がんに多い肺門型の肺がんは、早期から咳、痰、血痰などの症状が出現しやすいものです。腺がんに多い肺野型の肺がんは、がんが小さいうちは症状が出にくい傾向があり、検診や人間ドック、高血圧などの他の病気で医療機関にかかっている時に見つかることが多くなっています。

2) 転移性肺がん

肺は、全身の血液が循環するため大腸がんや乳がんなど、他臓器のがんの転移がおこりやすい臓器です。転移性肺がんの治療は、元のがんの種類、進行具合などにより手術の適応、切除の範囲、抗がん剤の種類などの治療法の選択が変わってきます。

以下は、肺に最初に発生した原発性肺がんについての説明です。

肺がんの周期分類と治療成績

病期が決まる因子と病期ごとに選択される治療法および5年生存率(今までのデータより算出した数字で、治療から5年間過ぎたときに生存していた患者さんの割合)を表に示します。

病期 状況 治 療 予後
(5年生存率)
0期 がんは局所に見つかっていますが、表層の一部のみにある早期の段階 1.外科療法
Ia期 がんの大きさは3cm未満で、リンパ節や他の臓器に転移を認めない段階 1.外科療法
2.放射線療法
(手術が適切でない場合)
約79.2%
Ib期 がんの大きさは3cm以上で、リンパ節や他の臓器に転移を認めない段階 1.外科療法
2.放射線療法
(手術が適切でない場合)
約60.1%
Ⅱa期 がんの大きさは3cm未満で、同側の肺門のリンパ節に転移を認めますが、他の臓器には転移を認めない段階 1.外科療法
2.放射線療法
(手術が適切でない場合)
約58.6%
Ⅱb期 がんの大きさは3cm以上で、がんが原発巣と同じ側の肺門のリンパ節に転移を認めますが、他の臓器には転移を認めない段階、あるいは、原発巣が胸膜・胸壁に直接およんでいますが、リンパ節や他の臓器に転移を認めない段階 1.外科療法
2.放射線療法
(手術が適切でない場合)
約42.2%
Ⅲa期 がんは大きくなくてもすでに縦隔と呼ばれる心臓や食道のある部分のリンパ節に転移している状態あるいは、がんが直接胸膜・胸壁に拡がっていますが、転移は原発巣と同じ側の肺門リンパ節まで転移している状態で、他の臓器には転移を認めない段階 1.外科療法
2.外科療法と化学療法
3.化学療法(放射線療法を
 含む場合もある)後に手術
4.放射線療法と化学療法
5.放射線療法
※1)参照
約28.4%
Ⅲb期 原発巣が直接縦隔に拡がっていたり、胸水があったり、原発巣と反対側の縦隔、首のつけ根のリンパ節に転移していますが、他の臓器に転移を認めない段階 1.放射線療法
2.化学療法と放射線療法
3.化学療法(放射線療法を
 含む場合もある)後に手術
※2)参照
20.0%
Ⅳ期 原発巣の他に、肺の他の場所、脳、肝臓、骨、副腎などの臓器に転移(遠隔転移)がある場合 1.抗がん剤による化学療法
2.痛みや他の苦痛に対する
 症状緩和を目的とした
 放射線療法
※3)参照
1年生存率
35-45%
  • 1)Ⅲa期では、治療前の検討で、手術によって完全にがん病巣をとり除くことができると判断され、体力(心臓や肺の機能、あるいは重い合併症の有無など)も手術に耐えうると判断された場合には外科手術が選択されます。その際、再発・転移の防止のために手術前後に放射線療法や化学療法が行われることもあります。しかし、このような手術に他の治療法を組み合わせる方法が優れているかどうかは、まだ検討の段階です。体力が十分でない場合は放射線療法のみが望ましい場合もあります。
  • 2)Ⅲb期では、胸水貯留を認めない場合には放射線療法と化学療法の合併療法、あるいは放射線療法単独が選択されます。少数ですが抗がん剤による化学療法と放射線療法の後に外科手術が行われることもあります。胸水貯留を伴っている場合、胸腔内に管を入れて胸水を排除した後、肺と胸壁を癒着させる薬を胸腔内に注入し、胸水が再びたまらないような治療を行った後、化学療法、放射線療法を選択することもあります。
  • 3)Ⅳ期では手術を行うことがなく、抗がん剤による化学療法が治療の主体となります。通常2つの抗がん剤の併用で行われることが多くなっています。標準的な組み合わせはいくつかありますが、より良い治療を目指して、新たな抗がん剤の組み合わせ・新規薬剤の使用等が臨床試験で行われています。副作用があるため、全身状態が不良な場合は化学療法ができないことがあり、緩和医療の適応となります。

術前・術後の補助療法について

Ⅲ期以上の進行がんである場合、臨床試験の結果、化学療法を行った後に手術を行った群の方が、手術だけを行った群よりやや予後がよいという報告があります。また、手術後の化学療法に関しては、行った方が予後が良かったという報告もありますが、差がなかったとの報告が大多数です。それらの結果は、いずれも1990年以前に開発された抗がん剤を使用した結果です。

1990年代になり新しい抗がん剤が数種類開発され、その組み合わせにより、手術不能な肺がんに対する臨床試験において、奏効率やQOLの改善度の点で良好な成績が得られつつあります。手術前あるいは手術後にこれらの新規抗がん剤や放射線治療を組み合わせて行う様々な臨床試験が現在行われており、良好な成績が得られることが期待されております。

しかしながら、副作用、合併症、治療期間の長期化、費用など不利益な点もあります。

補助療法の有効性が期待される場合、現在行われている臨床試験か、それに準じた補助療法を手術に組み合わせて行うことをご相談し、ご希望をお伺いいたします。

実績

原発性肺がん術後生存曲線(2007-2010:193例) 生存率、(月)

5年全生存率:79.7%
(※全国平均:69.6%)

周術期死亡(術後30日以内の死亡)
1例 (脳梗塞)  0.5%(0.4%※)
在院死 上記+1例(膿胸⇒再発) 0.5%(0.4%※)

病理病期 IA、IB、IIA、IIB、IIIA、IIIB、IV 生存率、(月)
病理病気 5年生存率(%) 症例数
IA 91.0 % 110
IB 77.5 % 28
IIA

62.5 %

8
IIB 52.5 % 15
IIIA 59.0 % 18
IIIB 47.7 % 12
IV 0 % 2
79.7 % 193

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呼吸器外科手術症例の推移(岡山済生会病院) (例)

原発性肺がん手術症例数(1995~2016)

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